涼しい話し

2017/ 07/ 16
                 
心霊体験とは言え、私には日常の風景でしかなく、まるで恐怖を感じていないが故に人を恐がらせる話し方ができない。たまには意に反して怖がってくれる人もいるが、ここにある真実は、基本的に悲しみと、温もりと、笑いでできている。ネガティブなことは全て悲しみが原因だし、愛情と執着には、人を想う同じ温もりがある。そして行動の全ては、過ぎ去れば笑えるものばかりだ。


あれは十九歳の夏の日、私は毎日バイクを乗り回し、何日も家に帰らない日々を過ごしていた。夏休みが終わりに近付いていたので、そろそろ札幌に帰ろうと湖畔の山道を抜け、苫小牧のとある踏切を渡った瞬間、女子高生が後ろに乗ってきた。霊的な視点を説明するのは難しいのだが、後ろにいても彼女の姿が全て見える。孤独と絶望に包まれ、誰かにすがらない限りその場を動けない典型的な自縛霊。お腹の中にもう一人、小さな霊もいた。妊娠を知った彼氏は知らん振り、厳しい家庭で育った彼女は誰にも相談できず、列車に飛び込んだのだ。彼女は私の背中にギュッとしがみつき、「大通公園...」と、小さな声で囁いた。思い出の場所らしい。嫌な感じはしなかったので、テレビ塔の下まで乗せたのだが、彼女の体は、凍えるほど冷たかった。


引っ越し仕事に赴いたときの話し。二十代後半の青年の単身パック業務を請け負った。荷造りと言えるほどの作業もなく、彼の母親が手伝いにきていたこともあり、ほんの一時間で積み込みが終わった。荷台から降りようと振り返ると、五十代後半くらいの男性が私を見上げていた。「なにか?」と声をかけると、深々とお辞儀をし、「宜しくお願いします」と言いながら忽然と姿を消した。顔が青年に似ていたので、亡くなった父親だとすぐに気付き、「お任せ下さい、ご心配なく」と、私は心の中で呟いた。死んでからもずっと父親をやっている姿に、心を打たれた。


北海道の道はバイク天国。技量を超えた速度を出さない限り、事故を起こす危険は少ない。私が一番お薦めのコースは、西海岸をひたすら北上する海沿いの道。あまりにも走りやすいワインディングロードには、免停ストレートと呼ぶに相応しい直線も多い。そんな場所では当然のように死亡事故も多く、やはり出る。たまたま立ち寄ったトイレで用を足していると、明らかに事故死したであろうグチャグチャの姿をした霊が壁から飛び出してきた。普通ならそこで死ぬほど驚いてあげるのが筋なのだろうが、「何やってんだお前?」と言う私の一言にたじろぎ、こぼれ落ちた目の玉が自分の口の中に入り、「オェ」っとなった。「キモイぞお前っ!」と言いながら爆笑してしまい、それにつられたのか、彼も血まみれの壊れた顔で、笑った。
                 

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